1.現状と課題の抽出・分析
現状
政府は2030年度に温室効果ガスを2013年度比26%削減する目標を掲げ、2050年カーボンニュートラル宣言と合わせ、あらゆる施設に対策強化を求めている。建築物環境衛生管理分野では、業務用建築物のエネルギー消費の過半を空調・換気・給湯設備が占め、民生業務部門の排出は他部門に比べ増加傾向が続き、排出の主要因となっている。とりわけ空調に係るエネルギー消費が最大の割合を占め、次いで照明・給湯設備が続く。建築物省エネ法により大規模非住宅建築物は省エネ基準適合が義務化されたが、既存建築物の大半は旧基準のまま放置され、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの普及率も低水準にとどまる。
課題の多面的抽出・分析
①技術面:既存建築物は熱源・空調設備の更新率が低く、高効率機器や自然エネルギー利用の導入が遅れ、設計時と運用時の性能に乖離が生じている。
②経済面:省エネ改修は初期投資が大きく投資回収年数が長いため、所有者とテナント間で費用負担者と便益享受者が一致しない分割インセンティブ問題が投資を阻害している。
③制度・運用面:中小規模建築物には適合義務がなく誘導策が不足するうえ、運用段階のエネルギー管理体制も未整備な建築物が多い。
④人材面:設備の高度化・自動化に対応できる維持管理技術者が不足し、更新後も性能を継続的に発揮させる運用・保守体制が脆弱である。
2.最重要課題と解決策
最も重要な課題は①技術面の設備高効率化の遅れである。理由は、業務用建築物の排出量の大部分を占め、既存ストックへの対策が削減効果として最大かつ即効性を有するためである。
解決策
(1)高効率ヒートポンプ、インバータ制御、全熱交換器等への更新によるZEB化の推進。設計性能を実運用で担保する。
(2)BEMS等による運転状況の見える化と、AI・IOTを活用した最適運転制御の実施。運用改善により追加投資を抑制する。
(3)外気冷房、地中熱・排熱利用、太陽光発電併用等の自然エネルギー活用によるベース負荷の低減。
(4)ESCO事業やグリーンリース契約の活用により初期投資回収を支援し、分割インセンティブ問題を解消する。
3.解決策に共通するリスクと対策
リスク
①設備の高効率化・自動制御化に伴う構成の複雑化により、故障時の影響拡大や維持管理コストが増大する。
②IOT化・ネットワーク接続に伴うサイバーセキュリティ上の脆弱性が生じる。
③改修工事中の空調停止等により室内温熱環境や空気質が悪化し、在室者の健康・快適性を損なうおそれがある。
④機器製造や更新に伴う資源消費・廃棄物増加により、ライフサイクル全体では削減効果が相殺されるおそれがある。
対策
①定期保守点検体制の構築と予備熱源の確保によりBCPを強化する。
②アクセス制御や通信の暗号化等、情報セキュリティ対策を講じる。
③工事中は仮設空調や換気量確保等の代替措置を講じ、法令に定める室内環境基準を維持する。
④導入前にライフサイクルアセスメントを実施し、総合的な削減効果を客観的に検証したうえで採否を判断する。
4.技術者倫理及び持続可能性の観点から必要な要件・留意点
技術士倫理綱領第1条に基づき、省エネ対策が換気量不足等を招き公衆の安全・健康・福利を損なうことのないよう、客観的なリスク評価を行い履行の妥当性を検証することが必要である。同綱領第2条に基づき、目先の省エネ効果のみでなく、ライフサイクル全体での環境・経済・社会への影響を評価し、負の影響を可能な限り低減しなければならない。同綱領第5条に基づき、削減効果は客観的データに基づき報告し、誇張を排して説明責任を果たす。同綱領第6条に基づき、建築主とテナント双方の利害を公正に調整し、利益相反の回避に努める。同綱領第9条に基づき、関係する技術者・専門家と相互に信頼し協力して業務を進める。さらに同綱領第10条に基づき、自らの専門分野の力量を常に高め、後進技術者の育成にも努める。これらの倫理原則を業務遂行の判断基準として一貫して適用し、公益の確保を最優先としつつ、安全で持続可能な社会の実現に技術者として貢献する。
出典・引用
温室効果ガス削減目標(2030年度26%減、2013年度比):問題文(令和元年度技術士第二次試験問題〔衛生工学部門〕)
技術士倫理綱領各条の適用:プロジェクト内資料「技術士倫理綱領への手引き(第一版、2023年4月、日本技術士会倫理委員会)」
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